あなたの好きなことはなに?
先月人と話していて「私も好きなことで起業したい」と言われるので
誤解している私は嫌いじゃないが特にすごく絵を描くのが好きではないのだ(好きならもっと上手くなるはずこの年なら売れまくっているはずである)ということ。私は起業じゃなくて零細個人事業主で日々汲々としていること絵とは関係なくても高給な定食定職があればいつでも飛びつく準備は出来ていることを丁寧に説明し
あなたの好きなことは何なのだ 誰にでも寝食を忘れるほど好きなことがあるだろう それを仕事にしてみてはいかがなものか
と意識の高そうなことを言ってみたら
「それが分かれば苦労しない、あなたこそ寝食を忘れるほど好きなことは何か?」
と問い返された。
食べることと眠ることが大好きなのです
ぐっ!と息が詰まる思いがして互いに黙り込んでしまった。
私の好きなこと…一番好きなこと…
それは寝食(寝ること食べること)なのだ!
その大好きな寝食を忘れて打ち込んだことなどない!という究極の答えに行きついたのです。
より好きなのは舟和の芋羊羹を食べながら、無印の人がダメになるソファーで惰眠をむさぼることです。
かつて寝食に(気を配ること)忘れた日々
そういえば5年前に、漫画を描くのに夢中になり、24時間そればかりになり一年たたずに身体を壊したことがありました。それは、寝食を忘れるほど打ち込んだ、というよりも
寝食に気を配ることを忘れて打ち込んだ結果
に他ならないからです。(生活習慣は乱れ甘いものスナック菓子パンを主食にしながら制作に没頭、睡眠時間は4時間を切っていた)
本当に才能ある人はマジ寝食を忘れている
確かに寝食を忘れるほど打ちこむことがある人はそれこそが才能です。
エコールドパリだとかの画家にはそれこそ極貧で絵を何日も閉じこもり描く人のエピソードに事欠きません。
今現在の私の回りでも、それこそ、生活の全てが絵に結びつくような情熱的な方が沢山おられます。その目は輝き心は純粋。世の中の卑しいことなど一切興味がない。日々の努力が苦にならない。だからどんどん上手くなり、私のような人間には思いもつかない場所にいて、距離感どころじゃありません。次元のむこう宇宙の果てにいはります。これが本当の才能というものだと驚嘆する作品を生み出されます。
まさに神です。
ほんとにね、そういう人結構いるんですよ。圧倒されます。拝顔できただけで至福です。
すべての人が神ってる人生を送れない
しかし、皆が皆、そんな神ってる人生を送れるわけではありません。
好きなことで起業!好きなことでお金儲け!好きなことで輝く!とマスコミは喧伝しますが。
好きなことに打ち込むあまり、他の全てを忘れてしまうこと=健康や生活、経済を損ねてしまうからです。
何もかも全部好きなんて仕事している人はそうそういません。殆どの人が何かの歯車であり、他業種や他人との繋がりの中でお金を得ています。
たとえば私は寝食が一番好きで、出来たら仕事などせずに食い飲みを楽しんでいたいですが、そればかりだとバカ&不健康になるし、人とも会えない。サボりたいな眠りたいな、でも今日だけは頑張ろう、とムチうち仕事します。
しかし他の方もそうではないか。ああ、会社楽しい、パート楽しいずっと働いていたいほど大好きなんていないでしょう?お金がもらえるから今日も出勤するんです。でもそういう日々でも意外に自分にあった才能がどんな仕事にも見つかるものだと思います。
10のうち1好きなことがあれば=好きな仕事 でいいんじゃない?
長い間それに打ちこんできて、嫌なことシンドイことばかりだけど、いつしか10のうち1つくらい好きなかあ、ということが 好きな仕事の実態 なのではないかと思います。
私の仕事の絵は平凡かつ才能があるとはとても思えないんです。目を覆いたくなるほど自分の絵を見たくない日も多くあり、時間をかけてヒアリングして丁寧に仕上げることだけが今の私に出来ることだとそれに注力している日々です。
でもその日々の中でも私これ好き、ということが最近ようやく見つかりました。
お客様が好きなんです。幸せなお客様とメールにしろ対面にしろやり取りするとほんと嬉しくなる。お客様ほんと大好きです。
アスペぎみでコミュ障なんだけど、人付き合いと接客のスキルのポイントは違うところにある、と気が付きはじめました。それが私の身に着けた10のうちの1つの長年の築き・気づきなのです。
すべては楽しい寝食のためにある!
けど、それは一番好きな寝食を忘れるほどではないのです。
毎日仕事するのも、土日祝に寝食を楽しむためです。平日頑張るのも夜19時以降に寝食を楽しむためです。
美味しいものを食べてフカフカの布団に文庫本を持ち込んで寝て、いつの間にか朝を迎える、というのが一番好きなことです。寝食を忘れるほど好きなことは寝食(?)です。
ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」で”やりがい搾取”という言葉が出てきて拍手喝采を受けていました。
「好き」ならサービス残業もOK?
私のもっとも大嫌いなことの一つに「サービス残業」というものがあります。
大学卒業してすぐ勤めたデザイン事務所では徹夜従事が当たり前で、夜10時以降が本番です。キラキラと目を輝かした寝食を忘れるほどMacとデザインが好きな同僚が私を責めたてます。
もう帰るのか やる気がないのか
いやもう10時ですやん 既に5時間無償残業…w
何回かのやり取りのあと、私はそこを短期間で辞めました。後日、内容証明付きで残業手当を要求するという新入社員にあるまじき行為を行いました。
大勢の人に私の頭が変であると言われました。好きなら耐えて続けるべきだと。そんなにあっさり辞めれるなんて君にとって絵やデザインは大したことじゃないんだ、好きじゃなかったんだね?と。
その時
ああ、そうか、私はアーティスト・クリエイターにはなれない、好きじゃないから
とはっきり分かりました。
あれから20年たって、ガッキーの「やりがい搾取」によくぞ言ってくれたと感無量です。
絵に限らずダンスや芸能・アニメ・漫画などもそうです。娯楽の世界だからです。一見楽しそうだからです。
ともすれば好きだからいいでしょう?宣伝になるからいいでしょう?と無料奉仕を求める厚顔な人が後をたちません。好きなことを仕事にするのは楽しいことばかりだ、寝食を忘れて没頭できる命をかける価値がある世界なんだから安価な報酬や無料でもいいでしょう?と悪意なく思う人がとても多いのです。
特に古い業界の高齢の方はそう思う人が多い傾向があります。何度その悪意のなさ、良かれと思う善意のボランティア要求・割引要求に出会ったでしょう。ほんと悪意はないんです。物にお金を払うけど、手に取れない時間や技術に対価を払う時代を生きていないからそういう価値観なだけなのです。
そして絵を描く人はそういった悪意・善意に対抗できない、喧嘩して交渉するテクニックを持たない人が非常に多い。
契約?雇用関係?よく分からない。好きなことさえできればそれでいいの。お金なんてどうでもいい。眠れなくてもいい。好きなことさえできたら。
潜り抜けて描き続ける、作り続けるのはまさに情熱です。しかし、何年もそれは続けていくのは困難です。楽しいことを続けていき、それで生きていき、寝食を守っていける人は僅かです。
京都には沢山の芸大・美大があります。私もそのうちの一つを卒業しました。毎年沢山の若いクリエイターアーティストが大量生産されます。寝食を忘れるほど大好きな世界で、寝食に気を配るのを忘れた友人が同僚が上司が後輩が、時給100円くらい、いやもっと下かも?という状況に追いやられいつしか何処かへ行ってしまいました。
ある人は心をある人は身体を病みある人は何とか結婚して故郷に帰りました。
残って独立している人もいます。大学に残り教授になり名を挙げた人もいます。ほんのほんの僅かです。
それが才能=好き という世界なのでしょう。続ける、しがみついて描き続けるということがいかに苦しく甘やかなものなのか。そこに到達した情熱のある人を見ると目が眩みます。尊敬します。
※最初の問いかけをしてきた友人は、手芸をスマホアプリで売りはじめました。寝食を忘れるほどじゃないけど楽しいとのことです。