軍隊映画かと思ったら…
高倉健さん追悼特集で、ビデオにとっておいたのを、昨夜観ました。
長いんですよ、二時間半くらいある。
昔一度観かけたことがあるんですが、前半は、登山の前の準備とか人間関係の説明とかが長く、挫折してしまった。
で、前半だけ見てたら、明治30年代の軍隊が出てきて、軍人歴史映画かと思ってたんです。
今回通して観たら、そういうのじゃない、
強烈な「登山映画」でした。
観たら眠れない
恐ろしくて、シーンを思い出しては、眠れなかった!
まさにこれですぜ!奥さん!
このドレッドヘアのデザイナーの人(もう、名前とかじゃなくて、デザイナーはこういう人らなのかと思わせる強烈な記者会見でした)
この方もこの映画を見ていたら、こんな大変な目にあわずにすんでいたのかと思うくらいです。
ほんまに冬の山はおそろしい
文字通り「ばたばた」人が死ぬ
かいつまんで言えば
日露戦争前の日本、ロシアとの開戦にそなえ冬の行軍の訓練を行うこととなった。青森県、八甲田山で。
地元民は、止める、やばい、あぶない、と。
しかし、明治のイケイケどんどんの軍人達は、無謀な大人数編隊を組んで登っていく。冬山の実情を無視した装備、目算。
何よりの敗因は、地元民をバカにして、案内を頼まなかったということだ。
かくして、あ!という間に、行軍は冬の八甲田で迷子になり、全滅するのであった。
その数約、200人。生存者十数名。その恐怖、過程を映画で細かく2時間にわたり再現しているから、恐ろしいことこの上ない。
映画の撮影現場も過酷に違いない
映画は1977年のものだから、あの妙な十戒映画「エクソダス」のようなCGなど一切なく、明らかに、冬山をもろ撮影している。
撮影担当は木村大作さん。
この方は、後ほど、映画監督として、山をテーマにした作品を作られます。あの『劒岳 点の記』。
この平和でCG全盛の現代でロケを敢行し、スタッフの身の危険もあったという過酷な現場…。
『八甲田山』もさぞかし、出演者やスタッフも恐ろしい冬山体験をしたに違いない。
主演の一人、三國連太郎さんの映画終盤の土色の顔色は、もはやこの世のものではない。ほんまに怖い目にあわはったんだと思われます。
観ているこっちは、炬燵でロッテチョコパイなどをほうばっているのだが、身体が恐怖で震えてくる。
登山漫画
氷点下何度とか、当たり前の世界。
怖いのが、行軍で、つい、おしっこしちゃうじゃないですか。
おしっこをもらした瞬間、それで身体が凍ってしまい、瞬時に死んでしまうんですよ!でも手がかじかんで、ズボンの前をはだけることが出来ない。で、ぎゃああっと漏らしながら死んでいくのだった。
あと、凍傷が極まると、体感温度がおかしくなってしまい、服を自らはいでしまい、脳に変調をきたし、幻覚を見ながら、雪に飛び込んで死んでしまうとか。その恐ろしいさまは、ホラー映画の比ではありませぬ。
好日山荘(京都の山グッズ専門店)の品ぞろえが、なぜこういう風(やたら軽量とか)になっているのかとか、理解できました。商品のひとつひとつの仕様が、まさに命にかかわる、自分の身を守ることに直結するからなのでした。プロの登山家が何故にああも登頂前に荷物の点検を神経質なほどするのかが理解できます。
登山まんが、というジャンルもありますが
村上もとか「岳人列伝」
石塚 真一「岳」
など、漫画だから、ドラマチックに演出しているのだな、と思っておりましたが
ほんまに山って人がバタバタ亡くならはるんですね。
大作の日本映画
キャストは、亡き高倉健さん、ソフトバンクの白犬の声の北大路欣也さん、他にも、緒方拳さんや加山雄三さんなど、日本映画の至宝の方々がてんこもり。
冬山の恐怖に怯えつつ、人と人との信頼関係、究極な状況での人間関係についての素晴らしさ脆さが表現されています。登山に限らず組織や人生のあり方を考えさせられます。
現場の人を重んじること、大人数はいかんこと、重い荷物は邪魔なこと、プライドを捨てること、過去の成功体験などを捨てること、あいまいに決断しないこと。引き返す勇気を持つこと。年配者や地位の高い人が正しいとは限らないこと。細かいハックを大事にすること。
どれも登山に限らず、現実の生活や仕事にも役立つエッセンスが詰まっているように思います。
坂之上の雲といい、この頃の明治の軍部の上層部はあの騎兵隊の長州の精神を受け継いでか、やったれ、やったれという
良く言えば上昇志向、悪く言えば勢いに任せた無謀な計画性のなさがある。
このイケイケドンドンムードは、太平洋戦争で日本が敗戦するまで続くのであった。
映画もすごいですが史実は更にすごいです。 八甲田雪中行軍遭難事件 八甲田山の雪中行軍遭難事件がヤバ過ぎる!
こわくて、冬山登山なんてできません!
原作はこちら▼